最高裁判所第三小法廷 昭和56年(オ)413号 判決 1985年7月16日
上告人 国
代理人 藤井俊彦 並木茂 須藤典明 藤部富美男
被上告人 斎藤清司
主文
原判決中上告人敗訴の部分を破棄する。
右部分につき被上告人の控訴を棄却する。
控訴及び上告費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人柳川俊一、同鎌田泰輝、同小林域泰、同奥山時和、同中村勲、同佐藤康、同角田春雄、同宇佐美喜一の上告理由第二点について
一 原審の確定したところによれば、(1) 畠山公一は、有限会社角万建設工業(以下「訴外会社」という。)に対する秋田地方法務局所属公証人渡辺次郎作成にかかる公正証書第二一七九号の執行力ある正本に基づき、請求債権額を九〇万円として、秋田地方裁判所大館支部執行官小林二郎に対し強制執行の申立をし、同執行官の臨時職務代行者本間菊太郎(以下「執行官代行者」という。)は、昭和四二年五月一二日第一審判決別紙目録記載の砂利採取機付属共一式(以下「本件砂利採取機」という。)外八点(以下「本件各物件」という。)に対し差押手続をした、(2) 畠山は、訴外会社に対する前記公証人作成にかかる公正証書第二一八〇号の執行力ある正本に基づき、請求債権額を五万円として、前記執行官に対し強制執行の申立をし、執行官代行者は、同月二〇日本件各物件につき照査手続をした、(3) 本件砂利採取機は、被上告人が同年三月九日代金一八〇万円で購入し、砂利採取の用に供していたもので、前記差押、照査手続をした当時被上告人の所有に属していたところ、執行官代行者において、訴外会社がこれを占有しているものとして執行手続を進めたが、被上告人の所有に属することを知らなかつたことに過失はない、(4) 執行官代行者は、本件砂利採取機を民訴法五七三条(昭和五四年法律第四号による改正前のもの。以下同じ。)に規定する「高価ノモノ」(以下「高価物」という。)にあたるものとは認めず、一般の有体動産として、他の差押物件と併せて合計七〇万円足らずと評価した、(5) 同年六月一日本件各物件外一点は合計三〇万円で競落されたところ、本件砂利採取機の競落価格は一二万円であつた、(6) 本件執行当時の本件砂利採取機の価格は一八〇万円とするのが相当と認められるところ、執行官代行者においてこれにつき高価物として鑑定評価を経たとしても、右金額より低額でしか競落されないということは、全証拠によるもこれを認めることができない、(7) 被上告人は、本件執行債権者である畠山から、本件強制執行による損害の賠償金として、九〇万円の支払を受けた、というのである。
二 原審は、右の事実関係に基づき、本件砂利採取機は民訴法五七三条にいう高価物に該当し、執行官代行者は、同条に従い鑑定人をして評価をさせなければならないのにこれをしないで競売した点において、その職務に違反しており、右職務違反行為をするについて少なくとも過失があつたというべきであるとし、被上告人の本訴請求を、本件砂利採取機の価格一八〇万円から競落代金相当額一二万円及び畠山の支払つた損害賠償金九〇万円を控除した残額である七八万円の損害金及びこれに対する昭和四三年五月一七日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容した。
三 しかしながら、本件砂利採取機に関する損害として被上告人が主張するところは、被上告人は、本件砂利採取機を大高清から代金一八〇万円で購入し、内金二〇万円を支払い、残金を砂利及び栗石で月額一六万円宛支払う旨約したが、本件強制執行により砂利採取が不能となつたため、同人に対し約定の違約金二二四万六四〇〇円の支払を余儀なくされたので、本件砂利採取機につき右内金及び違約金の合計二四四万六四〇〇円相当の損害を被つた、というのである。被上告人の主張する右損害は、本件砂利採取機の所有権が侵害されたことによつて生ずる損害をいうものと解され、被上告人が他になんらかの権利ないし法律上の利益を侵害されたことについての主張はないところ、執行官代行者において鑑定評価を経るべき義務を尽くさずに競売したため、高価で売却できるものを廉価で売却したとしても、これによつて被上告人にその主張の損害が生じたということはできない。それにもかかわらず、執行官代行者が本件砂利採取機につき高価物としての鑑定評価を経ないで競売したことを理由に、前記のとおり七八万円の限度において被上告人主張の損害を生じたものとし、被上告人の請求を一部認容した原判決には、法令の解釈適用を誤つた違法があり、右違法が原判決中上告人敗訴の部分に影響を及ぼすことは明らかであるから、右の点をいう論旨は理由があり、原判決中右の部分は、その余の論旨について判断するまでもなく破棄を免れない。そして、原審の適法に確定した事実関係及び右に説示したところによれば、右部分についての被上告人の請求は理由がなく、これを棄却すべきことが明らかであるから、これと結論を同じくする第一審判決は正当であり、したがつて、右部分についての被上告人の本件控訴は、これを棄却すべきである。
よつて、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八四条一項、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判官 長島敦 伊藤正己 木戸口久治 安岡滿彦)
上告理由書 <略>